(1)この記事は、おおむね私の妄想です。
(2)私にとって近年のマジックのカードデザインはつまらないものですが、そういうカードデザインが悪だと思っているわけではなく、ウィザーズの開発チームを非難する気は全くありません。
(3)私にとってつまらないと思うデザインのカードを使うプレーヤーを非難する気も全くありません。接待ではないのですから、相手にとって楽しいカードを使う義務などないと思っています。私自身もつまらないカードをよく使います。

スタンダード視点での話です。
近年、ウィザーズ社はマジックのカードデザインについていくつかの大きな方針を決定したのではないかと考えています。
例えば、カードパワーを全体的に上昇させること(https://mtg-jp.com/reading/pd/0033449/)。明言はされていませんが、スタンダードプレーヤーはもちろん下環境を主戦場とするプレーヤーにもアピールできるようなパワーカードも継続的にデザインし続けることを目指しているように思えます。
また、当事者カード、いきなり裏面からプレイできる両面カード、キッカー、予顕、切除、魂力、《冥途灯りの行進》サイクル、《悪意の熟達》サイクル等、複数のコストでプレイできるカードを増やし、手札でカードが腐りにくくしたのもその一つなのでしょう。

そういった新たな方針の一つに、配信の際に派手な見栄えになるよう強力な誘発型能力を持つカードを大量にデザインし続けるというものがあるのではないかと私は妄想していて、それがこの記事のテーマです。

近年、個人や企業がゲームを配信する機会が増えましたが、マジックの配信は映えないという懸念がありデザイナーが目を付けたのが、1アクションでバババッとスタックが積まれる誘発型能力だったのではないでしょうか。
呪文を唱えるとバババッ、攻撃するとバババッ、ターン終了時にバババッ、これは映える!……こうして、馬鹿馬鹿しいほどに強力な置物やシステムクリーチャーが次々とデザインされるようになったのではないかと思えます。
(この記事では、「置物」を「マナ能力以外の継続的に使用できる能力を持つエンチャントやアーティファクト」という意味で使用します)

ターン終了時に《荒野の再生》《夜群れの伏兵》がバババッと誘発!
出来事呪文を唱えて《幸運のクローバー》が誘発、クリーチャー側で唱えて《エッジウォールの亭主》が誘発!
パーマネントを生贄に捧げて《波乱の悪魔》《フェイに呪われた王、コルヴォルド》がバババッと誘発!
変容を重ねて変容誘発型能力がバババッと誘発!
サイクリングで《ドラニスの刺突者》《雄々しい救出者》がバババッと誘発!
土地を出して《水蓮のコブラ》《創造の座、オムナス》の上陸がバババッと誘発!
《軍団のまとめ役、ウィノータ》を出して総攻撃でバババッと誘発!
クレリックが戦場に出て《生命の絆の僧侶》《正義の戦乙女》のライフゲインがバババッと誘発、ライフゲインによりさらに《生命の絆の僧侶》《クレリック・クラス》の強化能力がバババッと誘発!
《食肉鉤虐殺事件》でリセット、ライフゲインとライフルーズがバババッと誘発!

置物やシステムクリーチャーではありませんが、複数のパーマネントを追放しそれらのCIPをバババッと再誘発させることが容易な《空を放浪するもの、ヨーリオン》、二つのCIPを持つ《自然の怒りのタイタン、ウーロ》《死の飢えのタイタン、クロクサ》もこの方針に沿ったデザインなのではないかと思えます。《風景の変容》があるスタンダードにあえて《死者の原野》を突っ込んだのも、CIPをバババッと誘発させたかったからではないかと考えてしまいます。
その意味では、毎回同じタイミングで誘発する能力を持つ「英雄譚」の急増も、この方針に沿ったものと解釈できなくもありません。

特に印象的だったのが《軍団のまとめ役、ウィノータ》と《空を放浪するもの、ヨーリオン》のデザインで、通常なら自身の攻撃で戦闘ごとに一回のみ誘発するデザイン(《オレスコスの王、ブリマーズ》《航空船を強襲する者、カーリ・ゼヴ》等)や、CIPで一つのパーマネントのみを追放するデザイン(《ちらつき鬼火》《修復の天使》等)だったのが、このデザイン方針のおかげでここまでのパワーカードになったように思えます。
ご存じのとおり、強烈過ぎるカードパワーやシナジーにより、《荒野の再生》、《幸運のクローバー》、《大釜の使い魔》、《創造の座、オムナス》、《自然の怒りのタイタン、ウーロ》、《死者の原野》、《裏切りの工作員》は禁止となりました。何枚かは、誘発型能力を優遇しすぎたがゆえのバランス崩壊だったのかも知れません。

無論、昔から凶悪な置物やシステムクリーチャーは存在しました。
私は1996年にマジックを始めましたが、その頃のカードでは制限カードの《土地税》《黒の万力》、1999年に大量に発生した禁止カードでは《大地の知識》《ドリーム・ホール》《繰り返す悪夢》《精神力》が印象的でした。
他、禁止されなかったカードでは、《冬の宝珠》《ネクロポーテンス》《呪われた巻物》《貿易風ライダー》《適者生存》《ドルイドの誓い》《ルーンの母》《対立》あたりも印象的でした。
1999年に大量の禁止カードが発生し、その後少しの間置物についてはカードパワーはやや控え目になっていたように思いますが、《霊体の地滑り》等強力なものはありました。またシステムクリーチャーについては、《渋面の溶岩使い》《ゴブリンの名手》と下環境でも通用する強力なティムが続けてデザインされたのが印象的でした。
そしてミラディン(2003年)の《大霊堂の信奉者》、ダークスティール(2004年)の《頭蓋骨絞め》《電結の荒廃者》で置物やシステムクリーチャーの強さは再び限界を突破し、これらは禁止カードに指定されました。

ダークスティール以降、しばらくはカードパワーの面からは比較的平和な時代が続きました。神河謀叛(2005年)の《梅澤の十手》、ワールドウェイク(2010年)の《石鍛冶の神秘家》等強力過ぎる置物やシステムクリーチャーが登場しゲームバランスに深刻な影響を与えることはありましたが、全体的にはそういうカードの登場頻度は抑え目になっている印象があり、私は「置物やシステムクリーチャーのヤバさを開発は分かっているんだよね? 《梅澤の十手》《石鍛冶の神秘家》はこれまでにない能力だったから調整をミスっただけだよね?」と期待していました。

特に、2011年からの公式の方針「新世界秩序」(http://mtgwiki.com/wiki/%E6%96%B0%E4%B8%96%E7%95%8C%E7%A7%A9%E5%BA%8F)により、複雑過ぎるという理由から構築レベルのタッパーやルーターやティムはほぼデザインされなくなりました。私は「やっぱり置物やシステムクリーチャーは減らした方がいいよね! ウィザーズの開発チームはやっとわかってきた?」と勝手に思っていました。
構築レベルのタッパーやルーターは基本セット2012(2011年)の《ギデオンの法の番人》《マーフォークの物あさり》以降ほぼ収録されなくなり、構築レベルのティムはワールドウェイク(2010年)の《狡猾な火花魔道士》以降ほぼ収録されなくなっています。ついでに言うなら、1マナのマナクリーチャーはマジック・オリジン(2015年)以降基本的に収録されなくなりました。

しかし、2002年のコモンのティム《火花鍛冶》について言及した2017年の公式コラムを見て、私はウィザーズの開発チームに誤った期待をしていたことに気づきました。
「レア。レアは何が出てくるかわかりません。そのセットで最も強力な個別のカードはほぼ全てレアか神話レアです。それらに負けるとムカつくかもしれませんが、そのカードがコモンかアンコモンならばもっとムカつくでしょう。《火花鍛冶》、あなたのことを言ってるんですよ。」
https://mtg-jp.com/reading/translated/ld/0018221/

私はレアリティに関係なく、強力な置物やシステムクリーチャーはゲームをつまらなくすることが多いと思っていたのですが、開発チームの認識はそうではなく、リミテッドを破壊しなければ強力な置物やシステムクリーチャーも許容される、というものだったように思えます。

この認識の違いとカードパワーの向上のため、近年のウィザーズは私がしてほしくなかった「置物やシステムクリーチャーの強化」路線に進むようになったのではないかと思えます。
この路線が明確になったのは恐らく灯争大戦(2019年)で多数のプレインズウォーカーに常在型能力が与えられ置物に近い機能を持つようになってからで(《時を解す者、テフェリー》、あなたのことを言ってるんですよ。)、続くエルドレインの王権(2019年)では《幸運のクローバー》等の壊れた置物やシステムクリーチャーが多数登場しました。
ちなみに、灯争大戦では久々の構築レベルのタッパー、しかもコモンである《法ルーンの執行官》が収録され、エルドレインの王権でもレアながら構築レベルのタッパー《巨人落とし》が収録されており、新世界秩序はこの時に終了したのかも知れないと考えています。

ローウィン(2007年)でカードとしてプレインズウォーカーが初めて登場した時、否定的な声が多数ありました。
私は当時も今もプレインズウォーカーに否定的ではなく、そういう声の具体的内容を確認はしていませんでしたが、それらの中に、強力過ぎる置物になりかねないという懸念はあったのではないかと思っています。
その懸念は、灯争大戦で顕在化したと言えるのかも知れません。

ただ、開発チームも全くの無策で置物やシステムクリーチャーの大幅強化を行ったわけではなく、そういったカードがあっても環境が壊れないようある程度は工夫をしていたように思えます。
それは、そういった置物やシステムクリーチャーを除去できる構築レベルのカードを各色にデザインすることです。

本来クリーチャー除去が苦手なはずの白や青や緑にも強力なクリーチャー除去カード(それぞれナイトメア能力等、バウンス等、格闘等)を次々与え、それまで不可能だった黒でのエンチャント除去や、青でのアーティファクト除去も可能にしました(《鴉変化》。例外的なカードだそうですが……)。また、それらの除去カードに汎用性が高くメインから投入可能なものが多いのも特徴でしょう。
言ってしまえば、「壊れた置物やシステムクリーチャーをじゃんじゃん作るけど、各色にそれを除去できるカードをじゃんじゃん作るから大丈夫だよね」ということだったのかも知れません。さすがに《ゼロ除算》は汎用性が高すぎてそれ自体が禁止になりましたが。

しかし、コントロール系のデッキならまだしも、アグロやミッドレンジ系のデッキが置物やシステムクリーチャーに安定して対処できるほどの除去を採用することは難しく、2019年以降のスタンダードではアグロやミッドレンジ系のデッキ同士の対戦は運の要素が大きくなり過ぎているように思えます。

続きます。

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